private void GetUniverse(){};

知っていること、興味のあること

不条理なシュレーディンガーの猫

「私、シュレーディンガーの猫ってあんまり好きじゃない」
先輩の里琴(リコ)さんがいつものように唐突に否定から入った。
「人の猫に難癖つけるの、どうかと思いますよ」
「猫ちゃんは悪くない。シュレーディンガーも悪くないけど」
「それか、里琴さんが量子力学の過激派論者だったとか」
「そういう話じゃないの、真面目にやってくれる?」
里琴さんは神妙な面持ちで腕を組み、僕の雑な推理をきっぱりと退けた。

「要は、人々が『シュレーディンガーの猫』のことをあまりにぞんざいに扱うから、いい加減うんざりってわけ」
「はあ」
「なに、その気の抜けた返事」
里琴さんの『世間に物申すモード』にスイッチが入ったらしい。不条理な世の中に対して無規律に湧き上がるちょっとした苛立ちを大げさにして、警鐘をカンカンカンとけたたましく鳴らさずにはいられない性分なのだと、最近本人から力説された。
「みんなね、ものが隠されてるだけですぐ『2つの状態が重なって開けるまでどっちか分からない』とか言い出すんだよ。バカみたい」
「目の前の女の子が下着を履いているかは、スカートをめくって観測するまで分からない」
「うわっ、最低」
「この前見たツイートを思い出しただけですよ」
「サイテーだ」
ついさっきまで人々に向けられていた非難が、急にこちらへ牙を剥いてきた。

軽蔑するような目にいたたまれなくなって何とか話題を変えようとしたが、既に里琴さんの僕への関心はゼロになっていた。
「でもこういうの多くない? 『目に見えない力が働いている』とかさ、力が見えるもんなら見てみたいよね、逆に」
里琴さんも警鐘もカンカンだ。
「いくら料理が下手でも『ダークマター』は生まれないでしょ」
「まあまあ……。あ、それなら『恋愛の方程式』は方程式なのか、とかどうです」
「それ! ムカッとする。ちなみにアレはどちらかといえば不等式だよねえ」
「収入プラス身長プラス顔面偏差値>付き合う最低ライン、ですか」
「サイテーだなあ」
実際にはそれより下があったとしてもサイテーっていいますよね、と返せば余計になじられるのは明白だ。
これもまた世の不条理。